はじめに
本サイトの目玉は、下のカードめくりなので、適当に楽しんでいってください。
思いつかないと、ほぼ確実に詰まる不等式があります。第2弾はコーシー・シュワルツの不等式です。 実はそれほど実質的な形、パターンは多くないようです。 エンゲルの定理(別名:ティトゥの補題、Sedrakyanの不等式など)は、コーシー・シュワルツの不等式の非常に強力な変形バージョンです。(不等式4と8)
コーシー・シュワルツの不等式カードめくりゲーム
間違えても、計算の仕方と答えの説明がでるので、そのうち、覚えられます。
下のカードを全部めくってから、上のカードをめくる方法を奨めます。
原則、左辺≧右辺です。例外は1つで、逆も思いつかないといけない時があるようです。
出題不等式一覧(コーシー・シュワルツ編)
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\( \displaystyle (a^2+b^2)(x^2+y^2) \ge (ax+by)^2 \)
【ヒント】2変数のコーシー・シュワルツの不等式の基本形です。ベクトルを用いた内積のイメージと完全に一致します。 -
\( \displaystyle (a^2+b^2+c^2)(x^2+y^2+z^2) \ge (ax+by+cz)^2 \)
【ヒント】空間ベクトル・3変数における平方和と1次式の関係です。球面と平面の接点を求める問題などで活躍します。 -
\( \displaystyle (a+b+c)\left(\frac{1}{a}+\frac{1}{b}+\frac{1}{c}\right) \ge
9 \)
【ヒント】それぞれの項の平方根をとって展開したと見なす変形です。等号は \( a = b = c \) のとき成立します。 -
\( \displaystyle \frac{x^2}{a} + \frac{y^2}{b} \ge \frac{(x+y)^2}{a+b} \)
【ヒント】エンゲルの定理(Tituの補題)の2変数版です。分子が2乗になっている分数式の和を最小化する裏技です。 -
\( \displaystyle 3(a^2+b^2+c^2) \ge (a+b+c)^2 \)
【ヒント】左辺の定数3を \((1^2+1^2+1^2)\) と見抜いてコーシー・シュワルツを適用します。平方和と和の2乗の変換公式です。 -
\( \displaystyle (x+y+z)^2 \le 3(x^2+y^2+z^2) \)
【ヒント】上の公式の左右を入れ替えたバリエーションです。変数の和が一定のときの、平方和の最小値を求めるときに使います。 -
\( \displaystyle (1^2+2^2)(x^2+y^2) \ge (x+2y)^2 \)
【ヒント】係数が違う1次式 \((x+2y)\) の最大・最小を求める実践的な変形です。円の上の点と直線の距離の評価と同じです。 -
\( \displaystyle \frac{a^3}{b} + \frac{b^3}{c} + \frac{c^3}{a} \ge
a^2+b^2+c^2 \)
【ヒント】エンゲルの定理の高度な応用です。分子を \((a^2)^2 / ab\) などと変形して解く難問向けのアプローチです。
【補】上の式のいくつかを詳しく説明します。
エンゲルの定理関係 (不等式4,8)
不等式4の証明:2変数のエンゲルの定理証明する不等式
$$ \frac{x^2}{a} + \frac{y^2}{b} \ge \frac{(x+y)^2}{a+b} $$(※分母の $a, b > 0$ とします)
この不等式は、コーシー・シュワルツの不等式の基本形からダイレクトに導き出すのが最も鮮やかです。
【証明】
コーシー・シュワルツの不等式 $(A^2+B^2)(X^2+Y^2) \ge (AX+BY)^2$ において、各変数を次のように設定します。
- $A = \frac{x}{\sqrt{a}}$
- $B = \frac{y}{\sqrt{b}}$
- $X = \sqrt{a}$
- $Y = \sqrt{b}$
これを代入すると、次のようになります。
$$ \left( \left(\frac{x}{\sqrt{a}}\right)^2 +
\left(\frac{y}{\sqrt{b}}\right)^2 \right)
\left( (\sqrt{a})^2 + (\sqrt{b})^2 \right) \ge \left(
\frac{x}{\sqrt{a}}\sqrt{a} + \frac{y}{\sqrt{b}}\sqrt{b} \right)^2 $$
カッコの中を整理します。
$$ \left( \frac{x^2}{a} + \frac{y^2}{b} \right) (a + b) \ge (x + y)^2 $$
両辺を正の値である $(a+b)$ で割ると、目的の不等式が得られます。
$$ \frac{x^2}{a} + \frac{y^2}{b} \ge \frac{(x+y)^2}{a+b} $$
等号成立条件:コーシー・シュワルツの等号成立条件 $AY = BX$ より、$\frac{x}{\sqrt{a}}\sqrt{b} = \frac{y}{\sqrt{b}}\sqrt{a}$、すなわち $\frac{x}{a} = \frac{y}{b}$ のときです。
不等式8の証明:エンゲルの定理の高度な応用
証明する不等式:
$$ \frac{a^3}{b} + \frac{b^3}{c} + \frac{c^3}{a} \ge a^2+b^2+c^2 $$(※分母の $a, b, c > 0$ とします)
この問題は、左辺の分子を無理やり「2乗の形」に変形することで、3変数版のエンゲルの定理を持ち込むのが定石です。
【証明】
まず、左辺の各項の分子を2乗の形に変形します。
$$ \frac{a^3}{b} = \frac{(a^2)^2}{ab}, \quad \frac{b^3}{c} = \frac{(b^2)^2}{bc}, \quad \frac{c^3}{a} = \frac{(c^2)^2}{ca} $$これにより、左辺は次のように書き換えられます。
$$ \frac{(a^2)^2}{ab} + \frac{(b^2)^2}{bc} + \frac{(c^2)^2}{ca} $$ここで、3変数のエンゲルの定理 $\frac{x_1^2}{y_1} + \frac{x_2^2}{y_2} + \frac{x_3^2}{y_3} \ge \frac{(x_1+x_2+x_3)^2}{y_1+y_2+y_3}$ を適用します。
$$ \frac{(a^2)^2}{ab} + \frac{(b^2)^2}{bc} + \frac{(c^2)^2}{ca} \ge \frac{(a^2+b^2+c^2)^2}{ab+bc+ca} \quad \cdots (1) $$次に、この右辺の分母と分子の関係を評価するために、有名な絶対不等式 $a^2+b^2+c^2 \ge ab+bc+ca$ を使います。
(※この式は、両辺を2倍して移行すると $(a-b)^2+(b-c)^2+(c-a)^2 \ge 0$ となるため常に成り立ちます)
この絶対不等式から、分母より分子の一部($a^2+b^2+c^2$)の方が大きい、または等しいことがわかります。したがって、(1)式の右辺は次のように評価できます。
$$ \frac{(a^2+b^2+c^2)^2}{ab+bc+ca} = (a^2+b^2+c^2) \times \frac{a^2+b^2+c^2}{ab+bc+ca} \ge (a^2+b^2+c^2) \times 1 $$よって、最初から繋げると目的の不等式が示されます。
$$ \frac{a^3}{b} + \frac{b^3}{c} + \frac{c^3}{a} \ge a^2+b^2+c^2 $$等号成立条件:
エンゲルの定理の等号成立条件 $\frac{a^2}{ab} = \frac{b^2}{bc} = \frac{c^2}{ca}$(すなわち $\frac{a}{b} = \frac{b}{c} = \frac{c}{a}$)と、$a^2+b^2+c^2 = ab+bc+ca$ の等号成立条件より、$a = b = c$ のときです。
使い所
例えば、$x+y+z=1$($x, y, z > 0$)のとき、分子を無理やり2乗の形にしてエンゲルの定理を適用すると、以下のように一気に最小値が求まります。
$$ \frac{1}{x} + \frac{4}{y} + \frac{9}{z} = \frac{1^2}{x} + \frac{2^2}{y} + \frac{3^2}{z} \ge \frac{(1+2+3)^2}{x+y+z} = \frac{6^2}{1} = 36 $$エンゲルの定理の一般形とスゴいところ
エンゲルの定理を $n$ 変数で一般化して書くと、次のようになります(分母はすべて正とします)。
$$\frac{x_1^2}{y_1} + \frac{x_2^2}{y_2} + \cdots + \frac{x_n^2}{y_n} \ge \frac{(x_1+x_2+\cdots+x_n)^2}{y_1+y_2+\cdots+y_n}$$
【何がスゴいのか?】
不等式の証明や最小値を求める問題で、「分子が2乗になっている分数の足し算」が出てきたら、この定理の出番です。
バラバラの分数を、「分母はそのまま全部足す」「分子は2乗を取って足し合わせてから、最後に全体を2乗する」というルールで、一気に1つの分数にまとめることができます。通常のコーシー・シュワルツの不等式でも証明できるのですが、この「分数の形」のまま適用できるため、数学オリンピックや大学入試の難問で「知っていると瞬殺できる裏技」としてよく紹介されます。
球面と平面の接点を求める (不等式2)
コーシー・シュワルツの不等式を図形問題に応用する典型的な例です。球と平面が接する条件や、その接点の座標を、面倒な微分や判別式を使わずにスマートに求めることができます。
【問題】
球面 $x^2 + y^2 + z^2 = 9$ と平面 $2x + y + 2z = 9$ が接することを示し、その接点の座標を求めよ。
【解答】
3変数のコーシー・シュワルツの不等式 $(a^2+b^2+c^2)(x^2+y^2+z^2) \ge (ax+by+cz)^2$ を利用します。
ここで、$a=2, b=1, c=2$ として不等式に代入すると、次のように評価できます。
$$ (2^2+1^2+2^2)(x^2+y^2+z^2) \ge (2x+y+2z)^2 $$ $$ 9(x^2+y^2+z^2) \ge (2x+y+2z)^2 $$ここで、球面上の点 $(x, y, z)$ においては $x^2+y^2+z^2=9$ が成り立つため、これを代入します。
$$ 9 \times 9 \ge (2x+y+2z)^2 $$ $$ (2x+y+2z)^2 \le 81 $$ $$ -9 \le 2x+y+2z \le 9 $$この結果から、平面の式である $2x+y+2z$ の最大値は $9$ であることがわかります。つまり、球面 $x^2 + y^2 + z^2 = 9$ 上の点が、平面 $2x + y + 2z = 9$ のラインを突き抜けることはなく、ちょうど最大値のところでギリギリ触れ合う(接する)ことが示されました。
【接点の座標】
接点は、不等式が最大値をとる瞬間、つまり等号成立条件を満たす点です。
コーシー・シュワルツの不等式の等号成立条件は $\frac{x}{a} = \frac{y}{b} = \frac{z}{c}$ なので、次のように置くことができます。
すなわち、$x=2k, y=k, z=2k$ です。
これを接する平面の式 $2x + y + 2z = 9$ に代入します。
$$ 2(2k) + k + 2(2k) = 9 $$ $$ 9k = 9 \quad \implies \quad k=1 $$したがって、$k=1$ を戻して $x=2, y=1, z=2$ となり、求める接点の座標は $(2, 1, 2)$ と一瞬で求まりました。
円の上の点と直線の距離の評価(不等式9)
次に、円上の動点と直線の距離を評価してみましょう。これは入試問題でも非常によく狙われるテーマですが、点と直線の距離の公式にコーシー・シュワルツの不等式を組み合わせることで、関数の最大・最小問題として鮮やかに解くことができます。
一般化された評価
円 $x^2 + y^2 = r^2$ 上の点を $P(x, y)$ とし、直線 $ax + by + c = 0$ との距離を $d$ とすると、距離の公式より次のようになります。
$$ d = \frac{|ax + by + c|}{\sqrt{a^2 + b^2}} $$ここで、分子の $ax + by$ の範囲をコーシー・シュワルツの不等式で評価します。
$$ (a^2 + b^2)(x^2 + y^2) \ge (ax + by)^2 $$円の方程式 $x^2 + y^2 = r^2$ を代入すると、
$$ r^2(a^2 + b^2) \ge (ax + by)^2 $$ $$ -r\sqrt{a^2 + b^2} \le ax + by \le r\sqrt{a^2 + b^2} $$これを距離 $d$ の式に組み込むことで、計算することなく最大距離と最小距離の候補を特定できます。
【具体例】数値による計算例
問題:円 $x^2 + y^2 = 1$ 上の点 $(x, y)$ と、直線 $3x + 4y = 10$ の距離 $d$ の最小値を求めよ。
解答:
コーシー・シュワルツの不等式より、
$$ (3^2 + 4^2)(x^2 + y^2) \ge (3x + 4y)^2 $$ $$ 25 \times 1 \ge (3x + 4y)^2 $$ $$ -5 \le 3x + 4y \le 5 $$点と直線の距離の公式に代入すると、
$$ d = \frac{|3x + 4y - 10|}{\sqrt{3^2 + 4^2}} = \frac{|3x + 4y - 10|}{5} $$ここで、$3x + 4y$ の最大値が $5$ であることから、分子 $|3x + 4y - 10|$ が最小になるのは $3x + 4y = 5$ のときです。
$$ d_{min} = \frac{|5 - 10|}{5} = \frac{5}{5} = 1 $$ちなみに最大値は、 $3x + 4y = -5$ のときで、$d_{max} = \frac{|-5 - 10|}{5} = 3$ となります。
💡 数学的ポイント
この手法の素晴らしい点は、図形的に「中心からの距離 ± 半径」という直感的な理解を、数式のみで厳密に裏付けられる点にあります。
等号成立条件(接点)は、$x:y = a:b$ の比率から即座に導き出せるため、座標を求める手間も大幅に削減されます。
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