並べ替えの不等式:理解をカードゲームで深めよう

2026年5月6日水曜日

数学 不等式

t f B! P L

はじめに

本サイトの目玉は、下のカードめくりなので、適当に楽しんでいってください。

思いつかないと、ほぼ確実に詰まる不等式があります。第4弾は並べ替えの不等式です。

非対称な式の証明を、面倒な因数分解なしで「大小関係」のセットアップだけで突破しましょう。

ラスボス感がありますね。

並べ替えの不等式(3変数の基本形)

【前提条件】
2つの実数の組が同じ順序で並んでいるとします。

\( a_1 \ge a_2 \ge a_3 \)
\( b_1 \ge b_2 \ge b_3 \)

【不等式】
このとき、\( \{b_1, b_2, b_3\} \) をどのように並べ替えたものを \( \{ \sigma_1, \sigma_2, \sigma_3 \} \) としても、以下の関係が成り立ちます。

① 同順の和(最大)

$$ a_1b_1 + a_2b_2 + a_3b_3 $$

\( \ge \)

② 乱順の和

$$ a_1\sigma_1 + a_2\sigma_2 + a_3\sigma_3 $$

\( \ge \)

③ 逆順の和(最小)

$$ a_1b_3 + a_2b_2 + a_3b_1 $$

同順: 大きいもの同士、小さいもの同士を掛け合わせたときが最大。
逆順: 大きいものに小さいものを掛け合わせたときが最小。

並べ替えの不等式カードめくりゲーム

間違えても、計算の仕方と答えの説明がでるので、そのうち、覚えられます。

下のカードを全部めくってから、上のカードをめくる方法を奨めます。

出題不等式一覧(並べ替え編)

  1. \( \displaystyle a_1b_1 + a_2b_2 \ge a_1b_2 + a_2b_1 \)
    【前提条件】\(a_1 \ge a_2, \; b_1 \ge b_2\)
    【ヒント】並べ替えの基本ルールです。「大きいもの同士を掛けたもの(同順)」が「ちぐはぐに掛けたもの(逆順)」より大きくなります。
  2. \( \displaystyle a^3 + b^3 + c^3 \ge a^2b + b^2c + c^2a \)
    【前提条件】\(a, b, c > 0\)
    【ヒント】集合として捉え、\((a^2, b^2, c^2)\)と\((a, b, c)\)の大小関係の順序が完全に一致する(同調する)ことに着目します。同順の組み合わせで掛け合わせた左辺が最大になります。
  3. \( \displaystyle \frac{a}{b} + \frac{b}{c} + \frac{c}{a} \ge 3 \)
    【前提条件】\(a, b, c > 0\)
    【ヒント】並べ替えの不等式を利用してサクッと解ける分数式の和です。相加相乗平均を3変数で使っても同じ結果が出ます。
  4. \( \displaystyle a^4 + b^4 + c^4 \ge a^3b + b^3c + c^3a \)
    【前提条件】\(a, b, c > 0\)
    【ヒント】これも\((a^3, b^3, c^3)\)と\((a, b, c)\)の大小の順序が一致することを利用します。因数分解しようとすると泥沼にハマるので、並べ替えの視点が非常に強力です。
  5. \( \displaystyle a^2 + b^2 + c^2 \ge ab + bc + ca \)
    【前提条件】\(a, b, c\) は実数
    【ヒント】一番よく見る並べ替えの応用です。\((a,b,c)\)と\((a,b,c)\)自身を掛け合わせるため、同じ順序で掛けた左辺が、順番をズラして掛けた右辺より大きくなります。
  6. \( \displaystyle x^5 + y^5 \ge x^4y + xy^4 \)
    【前提条件】\(x, y > 0\)
    【ヒント】2変数の極端なケースです。\((x^4, y^4)\)と\((x, y)\)の大小関係の順序が一致することから、同順で掛けた左辺が最大になることが分かります。
  7. \( \displaystyle \frac{a_1b_1+a_2b_2}{2} \ge \frac{a_1+a_2}{2} \cdot \frac{b_1+b_2}{2} \)
    【前提条件】\(a_1 \ge a_2, \; b_1 \ge b_2\)
    【ヒント】並べ替えの不等式の兄弟である『チェビシェフの和の不等式』の2変数版です。順序が揃っているとき、「積の平均(左辺)」は「平均の積(右辺)」よりも大きくなります。
  8. \( \displaystyle \frac{a}{b+c} + \frac{b}{c+a} + \frac{c}{a+b} \ge \frac{3}{2} \)
    【前提条件】\(a, b, c > 0\)
    【ヒント】超有名なネスビットの不等式です。大小関係を仮定して並べ替えの不等式を2回使う(同順・乱順・逆順を比較する)ことで華麗に証明できる、難問の登竜門です。

【補】説明と証明

$(a_1b_1 + a_2b_2) \ge (a_1b_2 + a_2b_1)$ の証明と直感的な理解について

\( a_1 \ge a_2 \)、\( b_1 \ge b_2 \) としたとき、同順の和と逆順の和の差を計算すると、以下のようになります。

$$ (a_1b_1 + a_2b_2) - (a_1b_2 + a_2b_1) = (a_1 - a_2)(b_1 - b_2) \ge 0 $$

これにより、あっさりと「同順の和 \(\ge\) 逆順の和」が示されます。3変数の場合も考え方は同じで、ちぐはぐな組み合わせの中に「大小が逆転しているペア」があれば、そこを交換(スワップ)することで合計値が必ず大きくなります。これを繰り返すことで、最終的に順序が完全に一致した「同順の和」が最大になります。

お札の種類と枚数で直感的に理解しましょう

数式だと少し硬く感じますが、直感的なイメージに置き換えると非常に当たり前のことを言っています。

あなたがゲームの報酬として、以下の2つのグループを与えられたとします。

  • お札のグループ: 10,000円札、5,000円札、1,000円札
  • もらえる枚数のグループ: 10枚、5枚、1枚

これらをペアにして掛け合わせた合計がもらえるとします。

一番得をするためには、当然「一番高いお札」に「一番多い枚数」を掛け合わせたいですよね。

これを数式で表現すると、 $$ a_1b_1 + a_2b_2 + a_3b_3 $$ が最大と、いうわけです。

このように、「大きいものには大きいものを(同順)」掛け合わせた方が、ちぐはぐに組み合わせるよりも全体の合計は圧倒的に大きくなります。
日常感覚の「一番お得な組み合わせ」こそが、まさに『同順の積の和が最大になる』という並べ替えの不等式の正体なのです。

応用(\(a^2+b^2+c^2 \ge ab+bc+ca\))の証明

この不等式は、高校数学でも頻出の非常に有名な式です。今回はテーマである「並べ替えの不等式」を使ったエレガントな証明と、参考として「一般的な式変形」による証明の2パターンをご紹介します。

【証明1】並べ替えの不等式からのアプローチ(視覚的で速い!)

前提条件より、$a \ge b \ge c$ とします。

ここで、全く同じ2つの集合 $\{a, b, c\}$ と $\{a, b, c\}$ を用意します。これらは両方とも中身が同じなので、当然同じ大小関係(同調)になっています。

並べ替えの不等式より、「大きいもの同士を掛け合わせた同順の和」が最も大きくなります。
つまり、自分自身を掛け合わせたときが最大です。

$$a \cdot a + b \cdot b + c \cdot c = a^2 + b^2 + c^2$$

一方で、証明したい右辺 $ab + bc + ca$ は、以下のように掛け合わされています。

  • $a$ に、自分とは違う $b$ を掛ける
  • $b$ に、自分とは違う $c$ を掛ける
  • $c$ に、自分とは違う $a$ を掛ける

これは、要素を1つズラして掛け合わせた「乱順の和」の1つです。
最大のパワーを持つ「同順の和」は、どのような「乱順の和」よりも必ず大きくなるため、あっさりと不等式が証明されます。

$$a^2 + b^2 + c^2 \ge ab + bc + ca$$

【証明2】式変形によるアプローチ(教科書の王道)

参考までに、並べ替えを使わない伝統的な証明方法も載せておきます。こちらのメリットは、$a \ge b \ge c$ という大小関係を仮定しなくても、すべての実数で成り立つことがハッキリ分かる点です。

(左辺)-(右辺)を計算して、それが $0$ 以上になることを示します。

$$a^2 + b^2 + c^2 - ab - bc - ca$$

この式全体を無理やり $2$ 倍して、半分($\frac{1}{2}$)にします。

$$=\frac{1}{2}(2a^2 + 2b^2 + 2c^2 - 2ab - 2bc - 2ca)$$

項の並びを工夫して、カッコで括り直します。($2a^2$ を $a^2 + a^2$ のように分けます)

$$=\frac{1}{2}\{(a^2 - 2ab + b^2) + (b^2 - 2bc + c^2) + (c^2 - 2ca + a^2)\}$$

すると、綺麗な2乗の形(平方完成)が3つできあがります。

$$=\frac{1}{2}\{(a-b)^2 + (b-c)^2 + (c-a)^2\}$$

実数の2乗は必ず $0$ 以上になるため、この式の値も必ず $0$ 以上になります。したがって、(左辺)-(右辺)$\ge 0$ となり、目的の不等式が証明されました。

1. 基本的な応用(\( a^3+b^3+c^3 \ge a^2b+b^2c+c^2a \))の証明

【証明】

実数の集合 \(\{a, b, c\}\) の要素を大きい順に並べ替え、\( x \ge y \ge z > 0 \) とおきます。

このとき、それぞれを2乗した集合 \(\{x^2, y^2, z^2\}\) も全く同じ順序 \( x^2 \ge y^2 \ge z^2 \) となります。つまり、2つの集合の大小関係の順序が完全に一致(同調)しています。

並べ替えの不等式より、「大きいもの同士を掛け合わせた同順の和」が最大となるため、他のどのような組み合わせ(乱順)よりも大きくなります。

$$ x^2 \cdot x + y^2 \cdot y + z^2 \cdot z \ge x^2 \cdot y + y^2 \cdot z + z^2 \cdot x $$

左辺は \( x^3+y^3+z^3 \) であり、これは元の文字 \( a,b,c \) の3乗の和と一致します。右辺は適当な入れ替えの積の和となるため、目的の不等式が成立します。

2. チェビシェフの和の不等式(2変数版)の証明

【証明】

前提条件より \( a_1 \ge a_2 \) かつ \( b_1 \ge b_2 \) です。並べ替えの不等式より、同順の和(最大)は逆順の和(最小)以上になるため、以下の不等式が成り立ちます。

$$ a_1b_1 + a_2b_2 \ge a_1b_2 + a_2b_1 $$

この両辺に、同じ値である同順の和 \( a_1b_1 + a_2b_2 \) を足します。

$$ 2(a_1b_1 + a_2b_2) \ge a_1b_1 + a_2b_2 + a_1b_2 + a_2b_1 $$

右辺を因数分解して整理します。

$$ 2(a_1b_1 + a_2b_2) \ge a_1(b_1+b_2) + a_2(b_1+b_2) $$ $$ 2(a_1b_1 + a_2b_2) \ge (a_1+a_2)(b_1+b_2) $$

両辺を4で割ると、目的の不等式が得られます。

$$ \frac{a_1b_1+a_2b_2}{2} \ge \frac{a_1+a_2}{2} \cdot \frac{b_1+b_2}{2} $$

3. ネスビットの不等式の証明

証明する不等式:

$$ \frac{a}{b+c} + \frac{b}{c+a} + \frac{c}{a+b} \ge \frac{3}{2} \quad (a, b, c > 0) $$

【証明】

式の対称性より、一般性を失わずに \( a \ge b \ge c > 0 \) と仮定できます。
このとき、分母の大小関係は \( b+c \le c+a \le a+b \) となるため、その逆数は以下の順序になります。

$$ \frac{1}{b+c} \ge \frac{1}{c+a} \ge \frac{1}{a+b} $$

これにより、2つの集合 \(\{a, b, c\}\) と \(\left\{\frac{1}{b+c}, \frac{1}{c+a}, \frac{1}{a+b}\right\}\) の大小関係の順序が一致しました。並べ替えの不等式より、同順の積の和が最大になります。

同順の和を \( S \) とおきます。

$$ S = a \cdot \frac{1}{b+c} + b \cdot \frac{1}{c+a} + c \cdot \frac{1}{a+b} $$

ここで、要素を1つズラした乱順の和を \( M_1 \)、2つズラした乱順の和を \( M_2 \) とおきます。

$$ M_1 = b \cdot \frac{1}{b+c} + c \cdot \frac{1}{c+a} + a \cdot \frac{1}{a+b} $$ $$ M_2 = c \cdot \frac{1}{b+c} + a \cdot \frac{1}{c+a} + b \cdot \frac{1}{a+b} $$

並べ替えの不等式より \( S \ge M_1 \) かつ \( S \ge M_2 \) が成り立つため、この2式を足し合わせます。

$$ 2S \ge M_1 + M_2 $$

右辺の \( M_1 + M_2 \) を計算すると、分母が同じもの同士が綺麗にまとまります。

$$ M_1 + M_2 = \frac{b+c}{b+c} + \frac{c+a}{c+a} + \frac{a+b}{a+b} = 1 + 1 + 1 = 3 $$

したがって、\( 2S \ge 3 \) となり、両辺を2で割ることで見事に証明完了です。

$$ S = \frac{a}{b+c} + \frac{b}{c+a} + \frac{c}{a+b} \ge \frac{3}{2} $$

QooQ